希少林床植物の保全:ランやイチヤクソウ類

植物なのに光合成をしない?

植物の中には葉緑体を持たず、光合成をしないものがいます。このアオキランもその一つ。ラン科やイチヤクソウ亜科の植物にはこうした種が多いです。ではどうやって生きているのでしょう?

実は、根の中に感染した菌を細胞の中で消化して炭水化物を得ているのです。このような植物は菌従属栄養植物と呼ばれます。

菌従属栄養植物は光合成をする必要がないから暗い林床でも生きていけます。しかしその反面、ある特定の菌が感染しなければ栄養摂取ができないのが弱点です。

地中の菌のネットワーク

菌従属栄養植物が栄養を得ている菌類はどこから炭水化物を得ているのでしょう?植物によって菌は異なりますが、多くの場合、菌従属栄養性植物の共生菌は樹木の根にも外生菌根を形成して、樹木から炭水化物を獲得しています。つまり、菌従属栄養植物は、菌根菌を介して、樹木の光合成産物を受け取って生きているんです!地中の見えない菌糸のネットワークが希少な林床植物を支えているなんて面白くないですか。

部分的菌従属栄養性

葉緑体を持っていて自分でも光合成はできるのですが、菌からも炭水化物をもらって生きている植物もけっこういます。よく見られるこのキンランもそうした部分的菌従属栄養植物(混合栄養植物ともいう)の一つ。根の内部を観察すると茶色い菌糸の塊がほとんどの根の細胞にあるのが分かります。これを消化して炭水化物を得ているんですね。安定同位体を測ってみると、必要な炭水化物の半分くらいを菌に依存していることが分かります。

開発事業と希少植物の保全

上で紹介した完全菌従属栄養植物や部分的菌従属栄養植物は土壌中のある特定の菌のネットワークと、その周辺の宿主樹木の両方が必要なため、生息可能な環境が限られます。ネットワークから切り離してしまうと生きていけません(だから掘って持ち帰っても、やがて死んでしまうのでやめましょう)。こうした菌従属栄養植物には絶滅危惧種がたくさん含まれています。開発にともなう環境アセスメントでは、菌従属栄養植物が保全対象種として取り上げられることが多いです。しかし、どのような菌が共生しているか全く分かっていない種も多く、また情報があっても場所によって共生相手が違ったりします。対象とする植物の生態が分からなければ、保全がうまく行くことはないでしょう。 

環境アセスメント現場の要望にお応えします

これまで、いくつかの企業や自治体からの依頼で、希少なランやイチヤクソウ類の共生菌を調べたり、保全対策へのアドバイス、実際の移植などを行ってきました(受託研究契約、共同研究契約に基づく)。どうしても必要な開発行為で生息地の攪乱が避けられないのなら、少しでも希少植物の保全対策がうまく行くように、お手伝いしていきたいと思います。

ダム、道路、鉄道、建設工事など、開発行為は今後も各地で行われるでしょう。こうした現場で希少植物を有効に保全するためには、経験ではなく科学的データに基づくことが必要です。相談がありましたらご連絡ください。

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