絶滅危惧樹木の保全: 菌根菌が鍵をにぎる!?(トガサワラ編)

 トガサワラ

トガサワラは日本固有の樹木で、マツ科のトガサワラ属に含まれます。トガサワラ属はかつて、北半球一帯に分布していました。現在も、北米にはダグラスファーというトガサワラ属の樹木が広い範囲に分布して、林業上も重要な樹木となっています。建材などとして、日本にもたくさん輸入されています。

絶滅危惧種

トガサワラは、日本の紀伊半島と高知のごく一部にしか残っていません。北米からベーリング陸橋を経由してやってきた祖先種が3千万年以上にわたって独自の進化を遂げた貴重な種です。残念なことに伐採などの影響によって個体数が減り、現在は絶滅危惧種に指定されています。この看板は奈良県にあるトガサワラ林で天然記念物として保護されています。

トガサワラにしか共生しない菌根菌の発見

トガサワラも他の樹木と同様に、菌根菌に養分吸収の大部分を依存しているので、適切な菌根菌が無いと生きていけません。そこで、トガサワラ林の菌根菌を調べたところ、トガサワラにしか共生しない特異性の高い菌根菌(ショウロ属の新種)を発見しました。驚くことにこの菌は3千万年以上前に北米から宿主樹木と一緒にやってきて、トガサワラと共進化してきた菌種だったのです。埋土胞子で最も優占していて、発芽した実生の定着に重要な役割を果たしていることも分かりました。この菌はトガサワラ林の保全の鍵をにぎっているのは間違いないでしょう。

シナトガサワラの菌根菌

シナトガサワラは中国に分布するトガサワラ属樹木。日本のトガサワラと同様に、長年独自進化を遂げた希少な樹木ですが、同じく絶滅危惧種に指定されています。この林で菌根菌を調べてみると、やはりシナトガサワラと共進化してきたショウロ属の新種が生息し、実生の定着に重要な役割を果たしていることが分かりました。

実はほかの絶滅危惧樹木でも、それぞれの樹種にしか共生しない菌根菌が生息していて、実生の定着を促進していることが次々に分かってきています。このように、これまで知られていなかった菌根菌が絶滅危惧樹木の保全に重要な役割を担っているなんて面白くありませんか。

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